ロシア選手の五輪参加制限は、2022年のウクライナ侵攻をきっかけに強化された。ただし、IOCによる選手の参加制限と、ロシア五輪委員会(ROC)そのものの資格停止は、異なる問題として理解する必要がある。
2022年から2026年までの重要な経緯2022年2月:ウクライナ侵攻と国際スポーツ界の対応
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、IOCは2022年2月、各国際競技連盟や国際大会の主催者に対して、ロシアとベラルーシの選手・関係者を大会に参加させないよう勧告した。
この措置は、選手個人への制裁という側面だけでなく、国際大会の安全確保やオリンピック運動の平和理念を守るという側面も持っていた。
2023年3月:個人中立選手という参加経路を提示
IOCは国際競技連盟との協議を経て、ロシアとベラルーシの選手について、一定の条件を満たした場合に個人中立選手として国際大会に復帰する道を示した。
この段階で、国家代表としての参加と、選手個人の競技参加を分ける考え方が明確になった。
2023年10月5日:ロシア五輪委員会が地域スポーツ組織を加盟させる
ロシア五輪委員会は、ウクライナの国内オリンピック委員会の管轄下にあるドネツク、ヘルソン、ルハンシク、ザポリージャの地域スポーツ組織を加盟団体に加えた。
IOCはこの措置を、ウクライナ国内オリンピック委員会の領土的な一体性を侵害する行為と判断した。
2023年10月12日:ロシア五輪委員会の資格停止
IOC理事会はロシア五輪委員会の資格を即時停止した。
この決定によってROCは、オリンピック憲章上の国内オリンピック委員会としての権利を失い、オリンピック運動からの資金も受け取れなくなった。
重要なのは、ROCの資格停止の直接的な理由が、2023年10月のウクライナ側地域スポーツ組織をめぐる加盟問題だったという点だ。ウクライナ侵攻に対するIOCの広範な参加制限とは、法的・制度的な根拠を分けて考える必要がある。
2025年10月〜12月:スキー競技の参加をめぐる対立
2025年10月21日、国際スキー・スノーボード連盟(FIS)は、ロシアとベラルーシの個人中立選手について、ミラノ・コルティナ大会の予選への参加を認めない方針を決めた。
これに対してロシア側はスポーツ仲裁裁判所(CAS)に申し立てた。
2025年12月11日、CASの修正決定によって、AIN資格条件を満たすロシア選手と関係者について、FISの競技会への参加を認めるよう求める判断が示された。
この経緯は、IOCが中立選手制度を認めても、実際の出場機会が各競技連盟の判断や法的な争いに左右されることを示している。
2026年2月:AINとしてミラノ・コルティナ大会に参加
ロシア出身13人を含む20人のAIN選手が大会に参加。ロシア代表団としてではなく、IOCの中立選手制度に従って競技した。
2026年7月7日:IOCがロシア五輪委員会の資格停止を暫定解除
大会終了後、IOCはROCに対する資格停止を暫定的に解除した。
理由は、ROCがウクライナ国内オリンピック委員会の管轄地域にある地域スポーツ組織を加盟団体に含めなくなり、今後も当該地域で活動しないと確認したことだった。
ただし、これは2026年2月の大会参加条件をさかのぼって変更する決定ではない。また、ロシア国旗や国歌を今後の五輪で使用できると決まったわけでもない。IOCは将来の五輪における国旗・国歌などの扱いについて、別途判断する方針を示している。
【2026年の大会結果】ニキータ・フィリポフの銀メダルとフィギュア勢の成績

ロシア出身のAIN選手の成績で、最も大きな成果となったのが山岳スキーのニキータ・フィリポフだ。
ニキータ・フィリポフが山岳スキーで銀メダルニキータ・フィリポフ(Nikita Filippov)
2026年2月19日に実施された男子スプリントで、フィリポフは2分35秒55で2位となり、銀メダルを獲得した。
優勝はスペインのオリオル・カルドナ、3位はフランスのティボー・アンセルメだった。
山岳スキーは、登山とスキー滑走を組み合わせた競技で、ミラノ・コルティナ大会で初めて冬季オリンピックの正式競技となった。
フィリポフは、この新競技でAINとして表彰台に上がった選手の一人であり、ロシア出身選手の参加を象徴する存在となった。
ペトル・グメンニクは男子フィギュアスケート6位ペトル・グメンニク(Petr Gumennik)
男子フィギュアスケートでは、グメンニクがAINとして出場した。
ISUの公式結果によると、フリースケーティングでは184.49点を獲得。ショートプログラムとの合計は271.21点で、最終順位は6位だった。
フリースケーティング単体では4位に相当する成績を残したものの、ショートプログラムを含む総合順位では表彰台に届かなかった。
金メダルはカザフスタンのミハイル・シャイドロフ、銀メダルは日本の鍵山優真、銅メダルは日本の佐藤駿が獲得している。
グメンニクの結果は、ロシアのフィギュアスケート界が国際舞台に復帰するための競技的な足掛かりという意味でも注目された。
アデリア・ペトロシアンは女子フィギュアスケート6位アデリア・ペトロシアン(Adeliia Petrosian)
女子フィギュアスケートでは、アデリア・ペトロシアンがAINとして出場した。
ISUの選手プロフィールと大会結果によると、合計得点は214.53点。最終順位は6位だった。
ペトロシアンはトリプルアクセルや4回転ジャンプを競技で成功させた実績を持つ選手で、ロシアのフィギュアスケート界を代表する若手として注目されてきた。
ただし、国内大会での実績とオリンピックの結果は分けて評価する必要がある。ミラノ・コルティナ大会では表彰台には届かなかったものの、AINとして五輪の女子個人種目に出場した。
AINのメダル獲得数は銀1個2026年大会のAINのメダル獲得数は、次のとおりだった。
AINのメダル成績
0
金メダル1
銀メダル0
銅メダル
銀メダル獲得者:ニキータ・フィリポフ
山岳スキー男子スプリント/2026年2月19日
ここで重要なのが、メダルの公式記録上の所属だ。
フィリポフの銀メダルはロシアの国別メダル数には加算されず、AINのメダルとして記録された。ロシアの国家代表団が獲得したメダルとして扱うことはできない。
つまり、競技者本人がロシア出身であることと、五輪の公式記録でロシアがメダルを獲得したことは、まったく別の意味を持つ。
【よくある誤解を検証】ロシアは2026年大会に完全復帰したのか
2026年のロシア選手の参加状況を理解するうえで、特に混同されやすいポイントが3つある。
誤解1:ロシア選手は全員出場禁止だった?これは正確ではない。
ロシア代表団としての参加は認められなかったが、IOCの審査と競技別の資格条件を満たした選手にはAINとして出場する道があった。
実際に13人が参加しており、フィリポフは銀メダルを獲得している。
誤解2:AINのメダルはロシアのメダルになる?これも誤りだ。
AINのメダルはAINとして集計され、各国の国内オリンピック委員会別のメダルランキングには加算されない。
フィリポフの銀メダルはロシアのメダル数には含まれない。
誤解3:2026年7月の資格停止解除でロシア代表に戻れた?ROCの資格停止が暫定解除されたことは事実だが、それだけでロシアの国旗・国歌を使用した国家代表団の五輪参加が確定したわけではない。
2026年7月のIOC発表では、ロシア選手の国際競技復帰に際して、アンチ・ドーピング体制の整備と検査の徹底も条件として示されている。
加えて、IOCはロシアの国旗・国歌などを今後の五輪で認めるかどうかについて、将来の大会に向けて判断するとしている。
したがって、2026年冬季五輪のAIN参加と、将来のロシア代表団としての復帰は別の問題である。
【冬季オリンピックのロシア選手】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2026年冬季オリンピックにロシア選手は何人出場しましたか?
ロシア出身の選手は13人です。ベラルーシ出身の7人と合わせて、AINとして参加した選手は合計20人でした。
Q2:ロシア選手は国旗や国歌を使えなかったのですか?
ロシア国旗とロシア国歌は公式の表彰などで使用できませんでした。代わりに、IOCが用意したAIN専用の旗と歌詞のない専用アンセムが使用されました。
Q3:ロシア選手は2026年冬季オリンピックでメダルを獲得しましたか?
獲得しました。山岳スキー男子スプリントでニキータ・フィリポフが銀メダルを獲得しています。ただし、公式記録ではロシアではなくAINのメダルとして集計されています。
Q4:ペトル・グメンニクとアデリア・ペトロシアンの順位は?
グメンニクは男子フィギュアスケート6位、ペトロシアンは女子フィギュアスケート6位でした。
Q5:ロシア五輪委員会の資格停止は現在も続いていますか?
2026年7月7日、IOCは2023年から続いていた資格停止を暫定解除しました。ただし、将来の五輪でロシア国旗や国歌を使用できるかどうかは別途判断されるため、全面的な国家代表復帰が確定したわけではありません。
2026年のミラノ・コルティナ冬季オリンピックで、ロシア出身の選手は国家代表団としてではなく、個人中立選手AINとして競技に参加した。
参加者は13人。IOCの個別審査、国際競技連盟の予選資格、戦争への支持や軍との契約関係に関する条件など、複数のハードルを越える必要があった。
大会ではニキータ・フィリポフが山岳スキー男子スプリントで銀メダルを獲得。一方、フィギュアスケートのペトル・グメンニクとアデリア・ペトロシアンはともに6位だった。
今回の大会で押さえるべき最も要点は、次の3つだ。
- 選手個人の参加と国家代表としての参加は別物である。
- AINのメダルはロシアの国別メダル記録には加算されない。
- 2026年7月のROC資格停止解除は、ロシアの五輪代表復帰や国旗・国歌の使用を自動的に保証するものではない。
2026年11月現在、ロシア五輪委員会の資格停止は暫定解除されている。今後はIOCの判断に加え、国際競技連盟の参加規則、アンチ・ドーピング体制、各大会の運営方針がロシア選手の復帰を左右する。
ロシアの冬季オリンピック参加をめぐる問題は、単なる出場禁止か解禁かという二択ではない。選手個人の競技参加をどこまで認めるのか、国家の政治的責任をスポーツにどう反映するのかという、オリンピック運動そのものの課題を映し出している。2026年大会は、その複雑な関係が具体的な競技結果として表れた大会だった。